RRoomly
管理運用

リフォームに金をかけた部屋ほど、3年後の空室率が高い理由

リフォーム投資判断空室対策オーナー対応

ある築25年のアパートで、オーナーが2部屋の同時リフォームを依頼してきた。1部屋は予算300万円のフルリフォーム。もう1部屋は予算80万円のミニリフォーム。

リフォーム直後、フルリフォーム部屋はすぐに満室になった。家賃も周辺相場より15%高く設定できた。ミニリフォーム部屋は周辺相場通りで、入居まで2ヶ月かかった。

オーナーは「やはり金をかけた方が正解だった」と確信した。

3年後、状況は逆転していた。


プロスペクト理論

行動経済学者ダニエル・カーネマンらが提唱したプロスペクト理論に、「参照点」という概念がある。

人間は絶対的な価値ではなく、参照点からの相対的な変化で満足度を判断する。同じ100万円の収入でも、年収500万円の人と年収1,500万円の人では満足度が違う。年収1,500万円の人にとっては「あって当然の100万円」だが、年収500万円の人にとっては「大きな喜びの100万円」になる。

賃貸物件でも同じ構造が働く。

フルリフォーム物件に入居した人の参照点は「ピカピカの新築同然の部屋」になる。1年経過後、壁紙にわずかな汚れが付くだけで「参照点からのマイナス」と感じる。設備が古くなれば不満が募る。

ミニリフォーム物件に入居した人の参照点は「築年数なりの部屋」だ。1年経過しても、参照点からの変化は小さい。設備が古いことは織り込み済みなので、不満が生まれにくい。


ホテルチェーンの研究

ホテル業界の顧客満足度研究で興味深いデータがある。同じグレードのホテルチェーン内で、リフォーム直後のホテルの方が、数年経過した同チェーンのホテルより顧客満足度が低い傾向がある。

理由は2つ。

  1. リフォーム直後の宿泊客は期待値が高く、わずかな不具合に厳しい
  2. リフォーム直後のホテルは細かい運用が定着しておらず、サービス品質にバラつきがある

賃貸でも同じだ。フルリフォーム物件の入居者は、内見時の印象が強烈なため、入居後の細かい運用に厳しい。設備の不具合、隣の生活音、共用部の汚れ。全てが「ピカピカの内見時イメージ」と比較される。


3年後の現実

ある築25年のアパートの話に戻る。3年後、両部屋の状況はこうだった。

フルリフォーム部屋 入居者は1年半で退去。退去理由は「設備の細かい不具合が気になる」「思ったより日当たりが悪い」「家賃が高い」。退去後、家賃を10%下げて募集したが、内見はあるものの契約に至らない。リフォーム直後の写真がポータルサイトに残っているため、現状とのギャップで内見後の辞退が多い。空室期間4ヶ月。

ミニリフォーム部屋 入居者は3年継続中。家賃滞納なし、クレームなし、近隣との関係良好。家賃は周辺相場通りだが、入居者が「住み心地に満足」と表明している。

3年間の収支を比較すると、ミニリフォーム部屋の方が累積収益が高い。リフォーム費用220万円の差は、3年の家賃差では回収できていない。


「家賃を高く取れる」の罠

フルリフォームの最大のメリットは「家賃を高く取れる」ことだ。周辺相場より15%高く取れれば、月3万円の差になる。年間36万円、3年で108万円。リフォーム費用220万円の差を回収できそうに見える。

問題は、家賃を高く取れる期間が限定的なことだ。

リフォーム直後の「新築同然」効果は2〜3年で薄れる。一度退去すると、次の入居者を募集するときに同じ家賃で取れない。築年数は経過しているため、相対的に「中古感」が増している。家賃を下げざるを得ない。

下げた家賃で次の入居者を取ると、その入居者は「中古物件として割安」という参照点で入居する。長く住む。これがミニリフォーム物件の構造と同じになる。

つまり、フルリフォーム物件は最初の入居サイクルでしかプレミアム家賃を取れない。2〜3年で中古物件に戻る。そこから先は、初期投資が重い分だけ不利になる。


オーナーが本当に投資すべきもの

フルリフォーム vs ミニリフォームの選択ではなく、「どこにお金をかけるか」の問題だ。

長期的に有効な投資

  • 給湯器・エアコン・水回りの更新(故障クレームを減らす)
  • 断熱・防音性能の改善(生活快適性を構造的に上げる)
  • セキュリティ設備の導入(防犯価値)
  • インターネット設備の更新(必須インフラの最新化)

短期効果しか出ない投資

  • 内装の見た目重視のリフォーム(壁紙・床材の高級化)
  • 装飾的なリノベーション(ブランドキッチンなど)
  • 内見写真映えする設備(実用性が低いもの)

長期投資は入居者が住み始めてから効果を発揮する。短期投資は内見時に効果を発揮する。両者は別物だ。


「内見で決まる」の限界

不動産業界には「内見で7割決まる」という経験則がある。だから内見時の印象を最大化するため、内装を綺麗にする。

これは正しい。ただし「内見で決まる」のは入居の意思決定であって、退去の意思決定ではない。

退去は、住み始めてからの体験で決まる。設備の使いやすさ、メンテナンスの対応速度、近隣との関係、生活快適性。これらは内見では分からない。

「内見で7割決まる」を信じすぎると、内見時のインパクト重視のリフォームに偏る。結果、入居率は上がるが、定着率は下がる。短期入居が増え、原状回復と客付けのコストが累積する。


オーナーへの説明

管理会社がオーナーに「フルリフォーム vs ミニリフォーム」を提案するとき、内見時のインパクトだけで説明するのは危険だ。

長期的な収支シミュレーションが必要だ。

  • 想定入居期間(フル:1.5〜2年 / ミニ:3〜5年)
  • 退去後の家賃下落リスク(フル:10〜15%下落 / ミニ:相場通り)
  • 累積原状回復費(入居サイクルが多いほど累積)
  • 機会損失(空室期間中の損失)

これらを織り込んだ10年シミュレーションで比較すると、ミニリフォーム+設備投資の方が累積収益が高くなることが多い。


まとめ

リフォーム投資の判断は、内見時のインパクトではなく長期的な収支で評価する必要があります。フルリフォームは初期入居サイクルでプレミアム家賃を取れますが、参照点が高くなり退去率が上がる構造的問題があります。

オーナーへの提案は、内装の見た目より、設備・断熱・セキュリティ・インフラへの投資を優先すべきです。長期的な入居満足度と退去率に直結する投資の方が、累積収益で勝ちます。

Roomlyで賃貸管理をもっとシンプルに

10区画まで無料。クレジットカード不要で、今すぐ始められます。

コメント

読み込み中...