騒音の苦情は、音量ではなく関係の問題になる
上の階の足音がうるさい、という連絡が入ります。
翌週、同じ建物の別の部屋からは何も来ません。構造は同じ、生活音の量もそう変わらないはずなのに、片方は耐えられず、片方は気にしていない。
騒音の苦情が難しいのは、ここです。音の大きさだけで決まっていない。
我慢できるかどうかは、音以外の要素で変わる
同じ音でも、受け取り方は状況によって変わります。
相手がどんな人か分かっていれば、多少の音は「生活している音」として処理されます。小さい子どもがいると知っていれば、走る音にも説明がつく。逆に、顔も知らない相手の音は、意図があるように感じられることがあります。
いつ鳴るかも影響します。予測できる音より、突然の音のほうが気になる。そして、一度気になり始めると、それまで意識していなかった音まで拾うようになります。この段階に入ると、実際の音量が変わっていなくても、苦情の頻度は増えていきます。
だから、音を測って基準値以下だと示しても、たいてい解決しません。「数値上は問題ない」と言われた側は、自分の感じ方を否定されたと受け取ります。
最初の対応で、方向が決まる
苦情を受けたとき、管理側の最初の反応が、その後を左右します。
避けたいのは、いきなりどちらかの側に立つことです。「よくあることなので我慢してください」と言えば、訴えた側は見捨てられたと感じます。逆に、事実確認をしないまま上階に注意すると、注意された側が「身に覚えがない」と反発します。両方から信頼を失うと、その後何を言っても通らなくなります。
まず必要なのは、状況を具体的にすることです。いつ、どのくらいの時間、どんな音か。「うるさい」だけでは、相手に伝えても改善のしようがありません。何曜日の何時ごろ、どういう種類の音が、どれくらい続くのか。ここまで分かると、対応の話ができます。
記録を取ってもらうよう依頼するのも一つの方法です。手間はかかりますが、具体性が出ると、話が感情論から離れます。
伝え方を変えるだけで収まることがある
上階に伝えるとき、「下の階から苦情が来ています」と言うと、対立の構図になります。誰が言ったかが焦点になり、当事者同士の関係が悪化します。
建物全体への注意として伝えると、角が立ちにくい。「集合住宅なので、夜間の音についてご配慮をお願いします」という形なら、特定の誰かを責める話になりません。
実際、自分の生活音が下に響いていることを認識していない人は多い。カーペットを敷く、椅子に脚カバーを付ける、洗濯機を回す時間をずらす。知れば対応できる範囲のことが、知らないまま続いていることがあります。
これで収まるケースは、思ったより多いように思います。
収まらないときの線引き
一方で、伝えても改善しない場合があります。
夜通しの騒ぎ、明らかに常識を超えた行為、繰り返しの警告に応じない。こうしたケースでは、契約上の対応を検討することになります。多くの賃貸借契約には、他の入居者に迷惑をかける行為を禁じる条項が入っています。
ただ、契約違反を理由に退去を求めるのは、簡単ではありません。賃貸借契約の解除には、当事者間の信頼関係が破壊されたと認められる程度の事情が必要とされるのが一般的な考え方です。一度や二度の苦情で成立するものではなく、経過の記録が求められます。
具体的にどこまでの事情があれば解除が認められるかは、事案ごとの判断になります。踏み込む場合は、弁護士に相談したうえで進めるのが確実です。
記録がないと、何度でも一からになる
騒音の問題が長引く理由のひとつは、経過が残らないことです。
いつ苦情があり、どう対応し、その後どうなったか。これが残っていないと、次に同じ連絡が来たときに、また最初から状況を聞くことになります。訴えている側からすると、前回話したことをもう一度説明させられるわけで、それ自体が不満になります。
Roomly のような管理システムで、部屋ごとに対応履歴が残っていれば、前回何をしたかを踏まえて話ができます。複数の担当者が関わる場合や、管理を引き継ぐ場合には、この履歴があるかどうかで対応の質が変わります。
契約解除まで検討する段階になれば、この記録がそのまま経過の資料になります。
完全な解決がない前提で考える
集合住宅である以上、生活音は必ず発生します。音をゼロにすることはできません。
管理側にできるのは、訴えを受け止めて具体化すること、伝え方を工夫すること、経過を残すこと。このあたりです。すべての苦情が解消するわけではありませんが、放置されていないと感じられるかどうかで、入居者の受け取り方はかなり変わります。
対応の中身より、対応されていることが伝わるかどうかが効く場面があります。