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修繕を先送りにする大家の物件は、なぜか「臭い」がする

修繕退去物件管理メンテナンス

ある物件で、退去が続いた。

3部屋中2部屋が1年以内に退去した。理由を聞くと、具体的な不満は出てこない。「なんとなく」「もう少し新しいところに住みたい」「古い感じがして」。設備は動いている。エアコンは冷える。給湯器もお湯が出る。壊れているものはない。

でも「古い感じ」がする。


腐敗を嗅ぎ分ける本能

進化心理学に、人間の「腐敗検知能力」に関する研究がある。

人間は、腐った食物を避けるために嗅覚が発達した。これは生存に直結する能力だった。だが研究が進むにつれて、この検知能力は食物に限らないことがわかってきた。人間は「管理されていない空間」に対しても、微弱な不快感を感じる。

実際の臭いがあるかどうかは問題ではない。視覚的な情報——壁の微細な汚れ、設備の表面の劣化、共用部の清掃状態——が「ここは管理されていない」という信号として処理される。この処理は意識的ではない。「なんとなく嫌だ」という感覚として現れる。

「古い感じ」は、おそらくこの無意識の検知が言語化されたものだ。


割れた窓が発する信号

犯罪社会学の「割れ窓理論」は、一枚の割れた窓が放置されると、その建物だけでなく周辺地域の犯罪率が上がる、という理論だ。

割れた窓そのものが犯罪を誘発するのではない。「この場所は管理されていない」という信号が、犯罪者の行動閾値を下げる。誰も見ていない、誰も気にしていない、という信号だ。

物件のメンテナンスも同じ信号を発している。

エアコンの外装が変色している。インターフォンの液晶が少し暗い。廊下の蛍光灯が一本切れている。どれも「機能」としては問題ない。エアコンは冷えるし、インターフォンは鳴るし、廊下は他の蛍光灯で十分明るい。

でもこれらは「管理されていない」という信号を発している。入居者はその信号を、おそらく無意識に、読み取っている。


機能と信号の区別

修繕には二つの目的がある。

一つは「機能の回復」だ。壊れたものを直す。動かなくなったものを動くようにする。これは修繕の明示的な目的で、費用対効果も測りやすい。壊れていなければ直す必要がない。

もう一つは「信号の維持」だ。この場所は管理されている、という情報を空間に残し続けること。これは機能が正常でも劣化する。エアコンが10年前のモデルでも冷えていれば機能としては問題ない。でも10年前のモデルが置かれている部屋は、「最後にこの部屋に投資があったのは10年前」という信号を発している。

修繕を先送りにする大家は、機能を基準に判断していることが多い。壊れていないから直さない。動いているから交換しない。機能の観点からは合理的だ。

でも入居者が感じている「古い感じ」は、機能の問題ではなく信号の問題だ。


退去理由に現れない退去理由

「なんとなく引っ越したい」「もう少し新しいところに」という退去理由は、退去理由のアンケートでは「その他」に分類される。

具体的な不満がないから、具体的な改善項目も見つからない。設備は動いている。家賃も相場並み。立地も悪くない。なのに退去する。原因が見えないから、対策が打てない。

でも入居者が「古い感じ」と言っているとき、それは空間が発している「管理されていない」信号への反応かもしれない。信号は言語化されにくいから、「なんとなく」という言葉になる。

蛍光灯を一本交換する。インターフォンのパネルを拭く。エアコンの外装カバーを新しくする。どれも数千円から数万円の費用で、機能の改善にはならない。でも「この場所は管理されている」という信号を発する。

人間は、管理されていない空間を無意識に嗅ぎ分ける。文字通りの臭いではなく、空間が発する信号として。

修繕を先送りにする大家の物件は、なぜか「臭い」がする。機能は壊れていないのに、信号が劣化しているからだ。

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