「満室なのに利益が出ない」——稼働率を追いかけた大家の末路
稼働率100%なのに、手残りが少ない
「空室より満室の方がいい」は正しい。でも「どんな条件でも満室の方がいい」は正しくない。
空室を埋めようとして家賃を下げ、それでも反応がなかったのでリフォームに10万円かけ、最終的に希望賃料より8,000円低い条件で入居が決まる——この判断の連鎖は珍しくありません。満室にはなった。でも、その1室からの月次手残りはリフォーム前より減り、費用回収まで10ヶ月近くかかる。
稼働率が上がっても、収益性が下がっている状態です。
「稼働率」と「収益性」は別の指標
満室経営に固執する大家が見ているのは「稼働率」です。空室ゼロ=100%の稼働率。これは確かに見栄えのいい数字です。
でも稼働率が高いことと、手元に残るお金が多いことは、別の話です。
| Aさん(満室維持) | Bさん(1室空き) | |
|---|---|---|
| 稼働率 | 100%(4/4室) | 75%(3/4室) |
| 月間家賃収入 | 25万円(値下げ済み) | 24万円(適正賃料) |
| リフォーム費用の月割 | ▲1.2万円 | 0円 |
| 実質月間収入 | 23.8万円 | 24万円 |
この例では、満室のAさんより1室空きのBさんの方が月1,200円多く残る計算になります。差は小さいですが、問題は「値下げした家賃は簡単には戻せない」という点です。次の更新、次の募集でも、下げた賃料が基準になっていく。
航空会社が「全席埋める」を目標にしない理由
収益の最大化と稼働率の最大化が別問題だというのは、航空業界ではずっと前から常識になっています。
LCCが「空席があれば直前に大幅値引きで売る」ことをやめて、需要予測に基づく動的価格設定(ダイナミックプライシング)に移行したのは、「安売りして満席にしても利益が出ない」という経験則があるからです。大手航空会社がビジネスクラスとエコノミーで価格を分けているのも、座席数の稼働率ではなく「1機あたりの収益最大化」を目標にしているから。
「1席でも空いているのはもったいない」ではなく「その席をいくらで埋めるか」を考える。
賃貸の満室経営も、同じ問いを立てられます。空室を埋めることより、「その部屋からどれだけ手残りが出るか」の方が本質的な指標です。
空室が続くとき、最初にやるべきことは値下げではない
空室が2ヶ月続くと、大家は値下げを考え始めます。3ヶ月になると「もう下げるしかない」という気持ちになる。気持ちはわかります。
でも値下げに手をつける前に確認したいことがあります。
写真は最近撮り直したか。 入居者の大半はSUUMOやHOMESで物件を探します。掲載写真が5年前のもの、暗い、角度が悪い——こういう理由で「見ない」にされている物件は少なくありません。写真を撮り直すだけで反響数が増えたケースは実際に多い。スマホで自分で撮れば費用はゼロ。値下げより先に試せる。
募集条件を見直したか。 礼金を下げる、フリーレントをつける、設備を追加する(Wi-Fi無料、宅配ボックスなど)。これらは一時コストで済む。家賃の値下げは永続的なコスト削減です。
客付け業者に「優先して紹介したい物件」と思われているか。 仲介業者は同時に複数の物件を抱えています。条件が似ていれば、大家との関係性が良い物件から紹介する。これは業者の「悪意」ではなく、自然な優先順位です。
業者に顔を出して挨拶する、内見のフィードバックを聞く、広告費(AD)を見直す——こういった地道な関係構築が、空室期間を縮める一番の近道になることがあります。家賃を下げる前に、「この物件、ちゃんと紹介してもらえているか」を確認する価値はあります。
空室期間だけ民泊・短期貸しに転用する手もある。 Airbnbやstaynaxなどのプラットフォームを使い、長期入居者が決まるまでのあいだ短期で回す方法です。立地や設備条件が合えば、空室期間の家賃ゼロを補いながら適正賃料を待てる。ただし住宅宿泊事業法に基づく届出(年間180日制限)が必要で、区分マンションの場合は管理組合規約の確認も必須です。戸建てや一棟所有で条件が揃う場合の選択肢として覚えておく価値はあります。
値下げは確かに効果があります。でも「最後の手段」であって「最初の一手」ではない。一度下げた賃料を戻すのは、ほぼ不可能です。
「1部屋空いている状態」が最良解になるケース
少し極端な例ですが、計算してみます。
家賃10万円の物件が5室あるとします。適正賃料で4室が埋まっている状態(稼働率80%)と、家賃を8万円に下げて5室全部埋まっている状態(稼働率100%)を比較すると:
- 稼働率80%:10万円×4室=月40万円
- 稼働率100%(値下げ):8万円×5室=月40万円
同じ収入です。でも稼働率80%の方は、空き1室に次の適正賃料の入居者を待てる。値下げした5室は、全員の賃料が下がった状態で確定している。
もちろん空室が長引けばこの計算は変わります。でも「1〜2ヶ月の空室なら、値下げより待った方が得」になるケースは意外と多い。
大家さん学びの会のような不動産オーナーの勉強会でも、「値下げではなく条件変更で対応した」という事例が頻繁に共有されています。満室にしなくても収益が出る設計を持っている大家は、空室に対して冷静に動ける。
「満室」は手段であって目標じゃない
不動産投資の目的を改めて考えると、「満室にすること」ではなく「賃料収入から手元に残るキャッシュフローを最大化すること」のはずです。
稼働率100%は達成しやすい目標です。でもそれを達成するために家賃を下げたり、採算の取れないリフォームをしたりしていると、手残りは確実に減っていく。
「満室なのに利益が出ない」は珍しい話ではありません。空室の見え方が気になるあまり、数字より見た目を優先してしまう。
見るべき指標は稼働率ではなく、月次の手残りです。空室があっても手残りが出ている状態と、満室でも手残りが少ない状態——どちらが健全な経営かは、明らかです。
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