空室1か月の損失は、家賃1か月分ではない
空室が1か月続いたときの損失を、家賃1か月分だと考えると、判断を誤ります。
実際には、入ってこない家賃のほかに、出ていくお金があります。そして、空室期間は1か月で終わるとは限りません。ここを分けて見ると、「いくらまでなら家賃を下げていいか」の考え方が変わってきます。
空いていても、出ていくものがある
部屋が空いている間も、止まらない支出があります。
ローンの返済、固定資産税、共用部の電気代や水道代、建物の保険料、管理を委託していればその費用。これらは入居の有無に関係なく発生します。空室が1戸あるということは、その戸が負担していたはずの分を、他の戸か手元の資金で埋めているということです。
さらに、退去のたびに発生するものがあります。原状回復の費用、募集にかかる広告費や仲介手数料、鍵の交換費用。これらは入れ替わりの回数に比例して積み上がります。
つまり、1回の空室で発生するコストは「家賃 × 空室期間」ではなく、そこに入れ替わりの一時費用が乗った額になります。
空室期間は、想定より延びやすい
もうひとつの誤算が、期間の見積もりです。
「すぐ決まるだろう」と考えていた部屋が、3か月空くことがあります。特に閑散期に退去が出ると、次の繁忙期まで動かないことがある。夏に空いた部屋が、秋まで埋まらないというのはよくある話です。
退去のタイミングは選べません。ただ、退去の予告を受けた時点で、その部屋がどの時期に募集に出るかは分かります。繁忙期の手前なら早く決まる見込みが立ち、閑散期に入るなら長期化を前提に考える。この見通しの差が、条件設定の判断につながります。
「下げる」と「空ける」を比べる
値下げの判断は、この比較で考えると整理しやすくなります。
たとえば月8万円の部屋を、5,000円下げて7万5,000円で募集するとします。年間で6万円の減収です。しかも、一度下げた家賃は次の入居者にも引き継がれるため、影響は1年で終わりません。
一方、下げずに募集して2か月余分に空いた場合、失う家賃は16万円です。加えて、その間の固定費も出ていきます。
数字の上では、多くの場合で早く埋めたほうが有利に見えます。ただし、下げた家賃が何年も続くこと、同じ建物の他の部屋の家賃にも影響しうることを考えると、そう単純でもありません。既存入居者が周辺の募集条件を見て、更新時に減額を求めてくることもあります。
だから、この比較は物件ごと・部屋ごとにやるしかない。一律の正解はありません。
判断の前に、数字が揃っている必要がある
問題は、この比較をしようとしたときに、必要な数字がすぐ出てこないことです。
この部屋は過去に何回入れ替わったか。前回の空室期間はどれくらいだったか。原状回復にいくらかかったか。募集費用は。現在の家賃はいつ設定したものか。
これらが契約書のファイル、通帳、業者の請求書に散らばっていると、集めるだけで時間がかかります。結果、比較をしないまま「とりあえず下げる」か「とりあえず据え置く」になります。
Roomly のような管理システムで、部屋ごとに契約と入退去の履歴が残っていれば、この確認は画面上で済みます。空室期間が何日だったか、いつ入れ替わったかは、記録として自然に蓄積されます。
判断そのものは人がするしかありませんが、材料を揃える手間が減れば、判断する回数は増えます。
値下げ以外の手を先に検討する
空室のコストが分かると、家賃を下げる以外の選択肢も検討しやすくなります。
初期費用を抑える、フリーレントを設定する、設備を1つ追加する、募集の写真を撮り直す。これらは家賃を恒久的に下げるのと違い、影響が一度きりで済みます。
たとえば、月5,000円の値下げは長期間続きますが、フリーレント1か月なら影響はその1回です。同じ「決めるための譲歩」でも、後に残る度合いが違います。
どれが有効かは物件によりますが、値下げが唯一の手ではないことは確かです。
空室は避けられないが、長さは変えられる
賃貸を続けている限り、退去はなくなりません。空室そのものをゼロにするのは現実的ではない。
変えられるのは、空室になってから埋まるまでの長さと、その間の対応です。退去の予告を受けてから募集開始までの時間、原状回復にかかる日数、募集条件を決めるまでの判断の速さ。ここは工夫の余地があります。
損失の大きさが具体的に見えていると、この工夫に手をかける理由もはっきりします。