退去・原状回復つうじょうそんもう
通常損耗
賃借人が建物を通常の用法に従って使用したことで生じる損耗。原状回復義務の対象外で、補修費用は大家負担となる。家賃に減価分が含まれているという考え方が根拠。
通常損耗の定義
通常損耗とは、入居者が普通に生活していれば自然に発生する損耗を指します。経年変化と合わせて「自然損耗」と呼ばれることもあります。
民法第621条で「通常の使用および収益によって生じた賃借物の損耗」は原状回復義務から除外されると明記されており、大家が負担します。
具体例
- 家具設置によるカーペットのへこみ
- 壁紙の日焼けによる変色
- テレビ・冷蔵庫の裏のクロスの電気焼け
- 鍵穴の摩耗
- 水回りの軽度の水垢
これらは入居者がいかに丁寧に使っても発生するため、入居者に補修費用を請求できません。
通常損耗と特別損耗の境界
実務で最も揉めるのが、「通常」か「特別」かの判断です。
| 例 | 判定 |
|---|---|
| 普通の生活で生じた壁の汚れ | 通常損耗 |
| タバコのヤニ汚れ | 特別損耗(喫煙者責任) |
| 家具のへこみ | 通常損耗 |
| 模様替えのために家具を引きずった傷 | 特別損耗 |
| 床のフローリングの色褪せ | 通常損耗 |
| 飲み物をこぼした輪染み | 特別損耗 |
「普通に使ったか、注意を怠ったか」が分岐点です。
通常損耗特約
契約書に「通常損耗も入居者が負担する」と明記する「通常損耗特約」を入れる慣行もあります。ただし最高裁平成17年12月16日判決により、以下の要件を満たさないと無効とされます。
- 契約書に具体的かつ明確に記載されていること
- 賃借人が特約の内容を理解していること
- 通常損耗の範囲が明確で、賃借人の負担が過大でないこと
実務上は、通常損耗特約を入れても無効と判断される確率が高く、家賃に減価分を上乗せして回収する方が現実的です。